からくりいっぱいの「忍者の家」に隠された屋根裏の2畳DENは、
“心地よい狭さ”を満喫する異空間。
大阪市堺の浜寺公園に程近い閑静な住宅街に、今春完成したばかりのその家はあった。
おや、入り口はどこだ？格子戸が配されたシンプルな外観では、ぱっと見そのこぢんまりとした玄関はわからない。「忍者の家」と名付けられているのが、なるほどと思える。しゃれた表戸をすくっと開け、とんとんと石段を上がって、玄関へアプローチ。
忍者の家の住人は、現代の忍者のごとく和装の奇人か……という予想は大きくはずれ、出迎えてくれたのはジーンズ姿の、ごくごく普通の若いご夫婦だった。
「結婚して4年。インターネットでいろいろ探して、これだ！と思う建築家の先生を見つけたんです。で、『すっきりした家を』とお願いしまして」
その「すっきり」ぶりが、すごい。玄関脇に大きな靴収納スペースがある。段差が効果的なＬＤにもキッチンにも収納スペースがふんだんで、大きなプラズマテレビ以外なんにも目に入らない。しかも、そこがただの壁面かと思いきや、隠し扉だったり、回転扉だったりと、さまざまな「仕掛け」がある。カラクリに満ちた家はご夫婦2人には広すぎやしないかと、勝手な心配までしたくなる。が、「そのうち子供ができたら、僕の居場所はなくなるでしょう？
とご主人。そんな先々を見込んで設けられたのがDENスペースだ。
2階のご夫婦の寝室の横にある回転扉の奥が、そのDEN空間。子供時代、青春時代の写真やコレクションのフィギアなどが飾られたスペースが入り口にあり、そこから壁につけられた数段のはしごを上がり、収納家具の上を渡って到着するという、屋根裏部屋敵２畳のスペース。秘密の部屋へ上がっていくワクワク感が、なんとも楽しい。
「起きて半畳寝て1畳というでしょう？実は、実家の３畳間を自分の部屋にしていた時代があったんです。手を伸ばしたら何でも届く、あの快適さ。今は、無我の境地を極める部屋かな（笑）。そのうちテレビやオーディオを持ち込み、スポーツ番組を見たり、音楽を聴いたりすることになるでしょう」
やがて階下に子供たちの賑やかな声が響くようになり、主はこのDENスペースでとっておきの1人の時間を楽しむ。そんな日も近そうだ。
写真 ： 上 ： DENは、収納家具の上をするすると忍者のごとく上がっていった（右上）、
階段下から2.5mほど上にあり（右中）、
小さな扉を開けて入る（右下）。
「何もない」ことの贅を楽しみつつ、『三国志』のマンガを読みふけるご主人。
テレビ線とパソコン回線を引いてあるので、そのうちモノが増えていくかも」。
：右ページ右下 ： DENの入り口は、この回転扉。この先は、高校生の時から付き合っている仲良しの
奥様も『めったに入らない」というＫさん1人だけの空間である。
：右ページ左下 ：回転扉をクローズすると、ごく普通の壁にしか見えない。
施工後、チェクに来たお役所の係員すら壁だと思い、見落としそうになったそうだ。
まさに「隠れ部屋」なのが面白い。
：左ページ下 ：左／DEＮから斜め下を見ると、お気に入りのサッカーチームのユニフォームが
掛けられた階下の空間が見える。
右／弟と2人で写った七五三の記念写真や、サッカーチームで活躍していた
頃の写真が飾られた収納棚は、回転扉を入ってすぐ左手。
DENへの誘い空間である。